ヒト以外に口臭に悩む動物はいるの?水族館、動物園、動物病院で、獣医さんたちに聞いてみたヒト以外に口臭に悩む動物はいるの?水族館、動物園、動物病院で、獣医さんたちに聞いてみた

口臭に悩んでいるのはヒトだけとは限りません。もしかしたら、偏った食生活をしている肉食動物や草食動物たちって、とんでもない口臭の持ち主なのでは……!?水族館、動物園、動物病院と、それぞれの獣医さんに取材し、動物の口臭について調査してみました。

海の動物は、
泳ぎながらうがいをしている!?

まず訪問したのは、東京・品川区にある「しながわ水族館」。獣医師の遠藤智子さんが応対してくれました。

―― 今日は動物の口臭について知りたくてやってきました。ずばり、しながわ水族館で口臭のきつい生き物はいますか?

遠藤さん: うーん、ぱっと思い浮かばないですね。

――え、そうなんですか! ナマモノをバリバリ食べるから、魚臭い動物もいるのかな、と勝手に想像していました。海の生き物って、お口のケアはどうしているんでしょう? 気になります。

遠藤さん:ちょうどイルカのごはんの時間なので、口の中を見てみますか?

――ありがとうございます、ぜひ!!

※今回は特別に中に入れていただきました。

エサは、さば、さんま、いわし、ししゃもなど。

今回協力してくれたのは、バンドウイルカ(半道海豚)のエリーちゃん。つぶらな瞳がキュートな女の子です。性格は比較的なにごとにも動じず、周りに流されないタイプだとか。

さっそくですが、お口をあーーーん!

――歯並びがすごくいいんですね!

遠藤さん:バンドウイルカの歯は、上下合わせて約80本あります。ヒトのように食べ物を咀嚼するわけではなく、主にエサとして捉えた獲物を捕らえて逃がさないようにしているんですよ。

――海の生き物は、エサをもぐもぐしないんですね。

遠藤さん:はい。ほとんど丸のみなので、歯垢や食べカスが歯に付きにくいんです。歯石や歯垢を取るための歯ブラシなども特にしていません。食後は泳ぎながらうがいしていますから。

――え、泳ぎながらうがいを!? どういうことですか?

遠藤さん:水中で泳いでいる時にいつも口を閉じているわけではなく、開いたまま泳ぐこともあるんです。なので、うがいというか、そのまま洗い流すことができています。

――それって、たくさんの水を飲み込んでしまうのでは……。

遠藤さん:喉は閉じているので、飲み込みはしないようになっています。

――泳ぎながらうがいまでできちゃうなんて、イルカって賢いだけでなく、とても器用な生き物なんですね。しながわ水族館の生き物で、お口ケアをしている生き物はいますか?

遠藤さん:ゴマフアザラシは毎日ケアをしていますね。

――よかったら、ゴマフアザラシの歯磨きを見せてください!!

大きな身体のわりに、小さなお口がかわいいゴマフアザラシのはなこちゃん。釣り針を飲み込んだまま海岸で保護され、その日のうちに針を抜いてもらえた強運の持ち主です。

――ゴマフアザラシは、主に何を食べているんですか?

遠藤さん:イルカとまったく同じですよ。ただカットしてあげることが多いので、魚の肉や油が歯に付きやすいんです。なので、歯垢取りのトレーニングといって、飼育員の合図で口を開けるよう訓練しています。

歯は小さいけれど、ひげのインパクトもあって、ちょっと怖い……。

歯垢取りのトレーニング中は、思わず目を閉じてしまうはなこちゃん。気持ち良さそうな表情を浮かべています。

――実は事前に、セイウチの口はものすごく臭いという噂をキャッチしたのですが、これは本当ですか?

遠藤さん:うーん、ごめんなさい、私は、聞いたことないですね……。セイウチはエサを吸い込むような食べ方をするので、他の海の動物より人間と口の構造が似ていて、常在菌が多いのかもしれません。泳ぐ時もあまり口を開けないので。ただ、私はそういうセイウチを見たことはないですね。

――なるほど! そもそも個体差があるのかも。ありがとうございました。

【結論1】海の生き物はさほど口臭に
悩まされていない!

続いてお話を聞いたのは、大阪・天王寺市の天王寺動物園。ネットでかばの歯磨き動画を配信しているのを見かけ、何か知っているに違いないと思って問い合わせてみました。答えてくれたのは、獣医師の西岡真さんです。

陸の生き物に口臭はあるの?

――口臭のある動物といわれて、思い浮かぶ生き物はいますか?

西岡さん:実は思い浮かばないんですね~。口は食べ物を摂取するから、生きていく上でとても重要なところ。わずかな傷でも、そこからばい菌が侵入して病気になり、食事ができなくて死んでしまう可能性だってあるんです。だから口臭も含め、トラブルはないにこしたことがありません。

――言われてみれば確かにそうですね。でも、肉食動物のライオンなどは、イメージ的に口臭がありそうですが……。

西岡さん:ゲップとフンは確かにかなり臭いますね。でも、口臭は感じないかなぁ。そもそも近づくのは危ないから、口元の臭いを直接的に嗅いだことはありませんが。

――草食動物はどうですか?

西岡さん:口臭というか、反芻(はんすう)をするウシやヒツジ、ラマ、ラクダ、キリンなどは、一時的に臭うことはあるかもしれません。

こちらは反芻動物代表、フタコブラクダのジャックくんです(写真提供:天王寺動物園)。

――反芻ってなんですか?

西岡さん:一度飲み込んだ食べ物を再び口に戻して、再咀嚼(さいそしゃく)することです。自然界において食べられる立場にある反芻動物たちには胃が4つあり、1つ目の胃にとりあえず食事を溜めこんで、木陰など安全な場所に移動したらそれを反芻して消化・吸収します。胃の中には、エネルギー源であるセルロースを消化するための細菌やバクテリアがいて、そこから発するガスが臭い。いやぁ、ゲップはかなり臭いますね。

――どんな臭いなのか、なかなか想像がつきません。

西岡さん:センマイ(ホルモン)のニオイですね。バクテリアそのものが臭いというか、染み込んだ感じ。でも、ゲップは大切なんですよ。腸にガスがたまると死んでしまいますから。

――ウシなんかはよく唾液を垂らしていますが、あれは臭くないんですか?

西岡さん:唾液はネバネバしているけど、臭くはありません。むしろ常に唾液を出しているおかげで、口の中を洗い流していますから。

――なるほど~。たとえばカバって、よく「8020(ハチマルニイマル)運動」【※】のポスターにされているじゃないですか。あれは、虫歯になりやすいとか、口臭があるからなんですか?

【※】「80歳になっても20本以上自分の歯を保とう」という運動。日本歯科医師会が推進している。

カバの歯をチェックする様子(写真提供:天王寺動物園)。

西岡さん:そういうわけではないんですよ。カバは歯が伸び続けるので、のこぎりで定期的にカットしなければいけません。そのためにも、日頃から口を開けるトレーニングをしているんです。当園で暮らすカバのテツオくんは、歯茎のマッサージが大好きだから喜んで口を開けてくれますよ。

――じゃあ、逆にお口がいい香りの動物はいますか?

西岡さん:コアラですね。ユーカリしか食べないので、息もフンもユーカリの爽やかな香りがします。

いいにおいがするとほめられたコアラ。口臭はたしかに、食べ物にも左右されますよね(写真提供:天王寺動物園)。

――なるほど! ありがとうございました。

【結論2】陸の生き物にも
目立った口臭はない!

ヒトしか口臭に悩んでいないなんて、なんだか悔しいような……! では、ペットとして人気の生き物はどうなのでしょうか? 犬や猫を中心に、歯科に関する専門的な治療を得意とする、とだ動物病院の戸田功先生にお伺いしました。

9割以上の犬は歯周病!? ペロペロで
飼い主さんに感染する可能性も……

――口臭の悩みで来院するのは、どんな動物が多いのでしょうか?

戸田さん:犬、猫、うさぎ、ハムスター、小鳥などもいますが、圧倒的に多いのは犬ですね。約95%の犬に口臭があると言われているくらいなんですよ。ひどい状態だと、部屋にいるだけで臭いますから。

――どうして犬はそんなに口臭持ちなのでしょう?

戸田さん:正しく言うと、犬の場合は約95%が歯周病なんです。犬の口の中は弱アルカリ性のため、虫歯菌は増殖できないのですが、歯周病菌が増殖するには好条件な環境になっています。

――犬の口が臭う原因は歯周病ってことですか?

戸田さん:はい。歯周病は、歯周病原因菌によって歯を支える土台である「歯槽骨」が溶けてしまう病気です。細菌自体も臭いですし、歯周病悪化因子によってさらに悪臭を発生させます。具体的な臭いの質と原因物質は、腐った卵のような臭い(硫化水素)、腐ったキャベツのような臭い(メチルカプタン)、腐敗しかけた魚のような臭い(モノアミン類)、汚れた靴下のような臭い(イソ吉草酸)ですね。

――歯周病になりやすい犬の特徴はありますか?

戸田さん:年齢が上がるほど、歯周病になる可能性は高くなります。犬種でいうと、チワワやポメラニアン、ミニチュアダックスフンド、ミニチュア・ピンシャー、イタリアン・グレーハウンドなどでしょうか。身体が小さなトイ種は免疫力が低いとされ、アゴの骨も大型犬に比べれば弱いので、歯周病にかかっていないかどうかは特に注意してあげる必要があります。

犬の口臭予防にも、
やっぱり歯磨きが大切!

――口臭を予防するためには、どうしたらいいですか?

戸田さん:歯磨きをしっかり行うことですね。これによって歯周病を予防し、口臭を防ぐこともできますから。基本的に犬は口に触れられることを嫌がります。おやつなどのご褒美とセットにして、まずは口に触れることから始めて、徐々に歯磨きに慣れさせていきましょう。慣れてきたら、犬の好きな味を指に付けて歯に触れて、そこから歯ブラシを使いましょう。

――ヒトと同じように、毎食後に歯磨きをしたほうがよいのでしょうか?

戸田さん:毎食後までとはいいません。ヒトの場合は、食べカス(糖分)が虫歯を発生させる原因になるため毎食後に歯磨きをする必要がありますが、犬は虫歯菌がないのでどのタイミングでも問題ありません。1度にすべての歯を磨く必要もなくて、3日くらいかけて1周するくらいのペースで問題ありません。大切なのは歯周ポケットの細菌を掻き出すこと。ガーゼで歯の表面を拭くだけでケアしたつもりにならないよう、大切なパートナーとしてケアしてあげてください。

【結論3】犬、特に小型犬は、
口臭に悩んでいる!

いろんな生物の中には、ヒトを超える強烈な口臭があるのでは?と勝手に予想していましたが、動物園や水族館にいる動物は思いのほか口臭が少なく、ペットとして身近な犬が人間と同じように口臭があることがわかりました。

意外と身近にいた口臭の悩みをもつ動物。愛犬の口臭チェックをしつつ、ぜひ飼い主のみなさんも一緒にお口のニオイのケアをしてみてください!

取材・文 関紋加(ノオト)

<取材協力>

▼しながわ水族館
http://www.aquarium.gr.jp/

▼天王寺動物園
http://www.city.osaka.lg.jp/contents/wdu170/tennojizoo/

▼とだ動物病院
http://www.toda-ah.jp/

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