一般的に、臭い口臭は「玉ねぎが腐ったニオイ」、「生ゴミのニオイ」などと例えられることがあります。ただ、そう言われても、実際のところどれだけ破壊力のあるニオイなのか、あまりピンとこないですよね。
人を不快にするニオイの成分や特徴はどういうものなのでしょうか? 今回お話を伺ったのは、臭気判定士の石川英一さんです。石川さんは、現場でニオイの原因を調べるプロフェッショナル。これまで、住宅やオフィス、ホテルなど、さまざまな場所で発生する原因不明のニオイを突き止めてきました。口臭をはじめ、不快なニオイの特徴をお聞かせいただきましょう!
今回、石川さんにオファーしたところ、事前に4つの悪臭成分を用意するよう指示をいただきました。それぞれのニオイを嗅ぎながら解説していただきます。
口臭=玉ねぎが腐ったニオイ?硫黄化合物の代表成分
「メチルメルカプタン」
──まずは、口臭があんなに不快なニオイになるのはどうしてなのでしょう? その原因と言いますか、どんなニオイ成分なのか教えてください。
石川さん:口臭の主な原因は、口内の細菌が食べカスなどのタンパク質を分解するときに発生する「メチルメルカプタン」だと言われています。硫黄化合物の代表的な悪臭成分ですね。同じタイプでは、卵の腐ったようなニオイとして「硫化水素」も挙げられます。人が不快に感じるニオイには、だいたい硫黄成分が入っていますね。
──さっそくですが、これ、メチルメルカプタンを中心とした口臭モデルの成分なんですけど、嗅いでみていただけますか?
石川さん:こういうのはまず蓋のニオイから嗅ぐんですよ。あぁ、私には大したことないニオイですね。嗅いでみてください。
――あ〜! これは臭いですね……! ちょっと健康が心配になるような人の口臭という感じがします。嗅いでいると不安な気持ちになると言いますか。
石川さん:メチルメルカプタンは、玉ねぎが腐ったニオイだとも言われています。うっかりスーパーの袋に入れたまま長期間放置して、すっかり腐って溶けてしまった状態の玉ねぎですね。
食べ物から臭ってきたら要注意!鼻にツンとくる「ジオスミン」
――口臭がどんなニオイなのかわかったので、今回はそれ以外で人間が感じる不快なニオイについても教えてください。口臭よりも強烈なニオイがあるのか、ぜひ知っておきたいと思いまして。
石川さん:なるほど。では、手始めにこちらの「ジオスミン」をちょっと嗅いでみてください。
――これは……ブルーチーズのような鼻にツンとくるニオイですね。
石川さん:そう、有機化合物の一種である「ジオスミン」は、カビ臭なんです。ブルーチーズが苦手な人は嫌いなニオイでしょうね。
――個人的には全く嫌じゃないというか、むしろこのニオイならおいしく食べられそうな印象です(笑)。
石川さん:たしかにこの程度の強さのニオイであれば、そうかもしれません。カビ臭をはじめとした腐敗臭・物が燃えるニオイは「警戒臭」とも呼ばれていて、この刺激臭がしたら体に害があると本能的に忌避する臭気なんですよ。
世界一臭い食べ物にも!魚臭さを連想する
「トリメチルアミン」
――こちらの「トリメチルアミン」は、ちょっと魚臭い感じですね。
石川さん:そう、鮮度が悪くなった魚のニオイ成分です。これが高濃度になってくるとアンモニアのようなニオイを発します。世界一臭い食べ物と言われる「シュールストレミング」は、このニオイ成分を含んでいます。これは、ニシンの塩漬けを缶詰にしたスウェーデンの発酵食品です。私自身も、今のところこれは食べたことはありません。幸いなことに(笑)。
自分自身の悪臭に気づけない……加齢臭の成分「ノネナール」
――最後はこちら、「ノネナール」です。
石川さん:脂肪酸の一種ですね。実は私は、これがすごく苦手でして、電車の中でこのニオイがしてきたら、すぐその場から逃げます。
――あぁ〜、これは臭い! こういう体臭の人っていますよね。
石川さん:ノネナールは、加齢臭の成分です。子どもが「お父さん臭い」というのは、だいたいこれが原因ですね。脂系の成分なので、ニオイがしつこいんですよね。
加齢以外でも、毎日頭を洗わない人はこういったニオイが発生しやすくなります。頭皮は皮脂の分泌量が多く、その皮脂が分解されてノネナールが発生しますから。要は不潔が原因で発生するとも言えるニオイですね。
――でも、自分自身のニオイはわからないとよく言いますが、実際にはそうなのですか?
石川さん:はい、鼻がニオイに慣れることを「順応」と言います。長時間にわたって同じニオイを嗅いでいると、それに鼻が慣れてしまって嗅覚が働かなくなっていく。自分の体から発生するニオイは必ず自分で嗅いでしまいます。でも、それは無害なものだとわかっているので、脳は無視するようになってしまいます。ニンニクを食べた人が自分のニンニク臭さに気づけないのも同じ原理ですね。
結 論臭気判定士が考える
「人を不快にするニオイ」とは!?
――ニオイの世界は奥深い……。今回は4つの異なる悪臭成分をかいでみましたが、石川さんがもっとも「人を不快にするニオイ」だと思う成分はどれですか?
石川さん:最後に嗅いだノネナールですね。以前、目隠しをされたままいくつかのニオイを嗅いで分析するテレビ番組の企画があり、その中でウッと息が止まってしまったことがあります。それは、シャンプーしてから48時間経過したご年配の方の頭皮でした。ノネナールと汗とアンモニアが混ざったニオイで、それはもうきつかったですね……。
若者の頭皮は、洗って48時間くらい経ってもさほど不快なニオイに変化しないのですが、30代を超えるとだんだんニオイに脂っこさが出てきてしまいます。仕事柄、ニオイに「良いもの」「悪いもの」と区別はつけないのですが、できたら嗅いでいたくないニオイを挙げるなら、このノネナールです。
臭気判定士として、日々さまざまなニオイを嗅ぐ石川さんが、もっとも苦手なニオイとして挙げたのは意外にも身近な臭気でした。あなたも気づかないうちに、悪臭成分を発してしまっているかも……?
ニオイが発生する原因には、体質はもちろんのこと、生活習慣や食べ物も大きく影響してきます。規則正しく、清潔な生活を心がけ、口臭をはじめとしたニオイ対策を疎かにしないよう気をつけましょう!
取材・文 阿部綾奈(ノオト)